倭歌は歴史を詠う 「豊国の万葉集」
               記紀万葉研究家  福永晋三

    

 豊の国万葉集③ 山上憶良
(令和4年11月23日 於:小倉城庭園研修室)

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 「万葉集」巻第五 802番・803番
         (かわいい子供と暮らすよう亡命者に自首を呼びかけた歌)

 802番・803番歌が、山上憶良の「嘉摩(かま)三部作」の2作目「子らを(しの)へる歌一首」である。

 子らを(しの)へる歌一首 
          序を幷せたり
 思子等謌一首 并序
 釋迦如来、金口正説、等思衆生、如羅睺羅。又説、愛無子。至極大聖、尚有子之心。況乎世間蒼生、誰不子乎。
 釋迦(しゃか)如来(にょらい)金口(こんく)に正に()きたまはく、 等しく衆生を思ふこと睺羅羅(らごら)の如しとのたまへり。 又説きたまはく、(うつくし)びは子に過ぎたりといふこと無しとのたまへり。 至極の大聖すら尚し子を(うつくし)ぶる心有り。況むや世間の蒼生(あをひとくさ)の、誰かは子を(うつくし)びずあらめや。

*1

*2

 宇利波米婆 胡藤母意母保由 久利波米婆 麻斯提斯農波由 伊豆久欲利 枳多利斯物能曽 麻奈迦比尒 母等奈可可利提 夜周伊斯奈佐農

802

*1

 金口(こんく):仏の口。釈迦(しゃか)の説法。

*2

 羅睺羅(らごら):釈迦の息子。

 子らを(しの)へる歌一首 
          序を幷せたり
 瓜()めば 子ども思ほゆ 栗()めば まして(しの)はゆ いづくより (きた)りしものぞ まなかひに もとなかかりて 安寐(やすい)()さぬ
 (我が子が)ウリを食べていると可愛らしく、栗を食べているといっそう可愛く、子供というのはどこからやってきたのだろう。まのあたりにちらついてしきりに思い出され、安心して眠られない。
 反謌
 銀母 金母玉母 奈尓世武尓 麻佐礼留多可良 古尓斯迦米夜母

803

 (しろかね)(くがね)も玉も 何せむに まされる宝 子にしかめやも
 銀も金も真珠もどうして子にまさる宝はあるだろうか。

 この「子らを(しの)へる歌一首」は、子供が一番かわいいだろう。だから、「山澤に亡命している民に無駄な抵抗を止めて、里に帰ってきて子と一緒に暮らしなさい」と詠った歌である。

 亡命したまま、100日以上経っても自首しなければ、絞首刑になり、かわいい子供は、「中流」になる。