祇を禮び祭りて、背に日神の威を負ひ、影の隨に壓ひ躡まん。如此なせば、則ち曾て刃に血せずして、虜必ず自づと敗れん」。
僉曰く、「然なり」。是に軍中に令して曰く、「且は停まれ。復進むこと勿れ」。
乃ち軍を引きて還る。虜も亦敢て逼まらず。却りて草香之津に至り、盾を植ゑて雄誥爲す。因りて改め其の津を號けて盾津と曰ふ。
時に五瀬命の矢瘡の痛み甚だし。乃ち撫劒て雄誥して曰く、「慨哉、大丈夫虜が手に傷を被ひて、報いずして死なんや」。時の人因りて其の處を號けて、雄水門と曰ふ。
進みて紀國の竈山に到りて、五瀬命、軍に薨ず。因りて竈山に葬りまつる。